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産業廃棄物を捨てる話

山梨県の企業による廃棄物の不法投棄がニュースになった。

凝集剤入り汚泥残留か 雨畑川不法投棄現場の下流 静岡新聞社記者ルポ|静岡新聞アットエス

 

廃棄物の話は永遠にグレーゾーンを歩き続けることになるので、実務に携わる人にとっては非常に、非常に精神衛生に悪い。
生きている限り、企業に属している限り、廃棄物を排出するという責任の一端を誰もが担っている。

世の中のだれもが気持ちよく働き、暮らしていくために、廃棄物の落とし前をどうつけるのかというのは、誰かしらが決める必要がある。
そうして法律は作られたんだろうが、これは、もう、大変に、無茶なルールなのだろうと思う。
せめて、廃棄物で他人を殺さないようにというところが、精いっぱいのラインでしょう、と思う。

SDGsなんて叫ばれているが、資本主義が横行している限り、地球温暖化や海洋汚染を懸念して活動を進める多くの人の苦悩が続くと思う。

化学技術は、ビニール袋をはじめ、現代の素晴らしい医学・薬学を確立し、世界中の人を救っている技術だと思う。
一方で、廃棄物の話になると、こんなに面倒な話も他にないというほど複雑な問題になっていると思う。
また、コンプライアンス満点な廃棄物処理には多大なコストがかかるという点で、経済戦争との相性を含め、極めて質が悪い。


業務上必要だということで、社内の雰囲気で毒物劇物取扱者の資格を取ることになった。管理の大枠を抑えるために、条文を調べるところから作業を始めた。

企業のコンプライアンスが叫ばれている昨今においては、ひどく精神衛生に悪い作業だった。
私自身、医療にどっぷりつかっていながら、この作業にを付けている時間は、化学技術を使って経済を回す世の中に心底嫌気がさしていた。私の神経は細い。
廃棄物処理についてどこをどうやってオチをつけていけばいいのかという問題が、最も私の頭をもたげた。

これらの本に出合った。

土日で入門 廃棄物処理法〈第9版〉長岡 文明 (著)

 

どうなってるの?廃棄物処理法 BUNさんといっしょに考える 第3版どうなってるの?廃棄物処理法 BUNさんといっしょに考える 第3版著者 長岡 文明 

 

著者の方はもともと公務員として、実務者として廃棄物処理法の運用を担当していた方とのことで手に取ってみたが、廃棄物処理を考えるにあたって大変ためになるお話が書いてあった。

法律の話なので、基本的には最新の条文とお役所と弁護士と協力して乗り越える方針が無難に違いない。関係各所からの協力を仰ぐために、グレーゾーンが多い廃棄物処理法のどんなところが問題になってくるのかといった論点を押さえておくためにもきっと読んで損はないと思う。

毒物劇物の観点では、環境省のwebページで公開されているQ&Aが非常に重要だった。

毒劇法 / 関連法律 / 化学物質情報ケミココ

 

廃棄物処理のオチを考えるにあたって、ブルーバックスの読み物に手を付けてみたり、

 熱力学で理解する化学反応のしくみ―変化に潜む根本原理を知ろう (ブルーバックス)  平山 令明


教員A先輩の本棚を化学の本を教えてもらったり、

バーロー 物理化学 上 第6版 Gordon M. Barrow

して、

高度な化学技術の多くは、コントロールしきれないほど複雑で難しいことがぼんやり想像ついた。

でも、技術を持っている人はきっとおおむねオチを付けられるっておっしゃるでしょう。
でも、企業経営者をはじめ、多くの人の手に余るよねえ。
でも、生まれた時から化学技術にどっぷり浸かった生活なんだもの。
廃棄物処理に携わるのは、ババ抜きでババ引くみたいなもんなんだろうね。

じゃあ、野生に還れますかっていうと、そりゃもう無理。私が飯を食うために一番触るコンピュータも、数学・物理・化学の結晶の一つ。
じゃあ、できるだけ自然にやさしくするために、って廃棄物処理に金を出したとこから経済戦争に負けていく。我が国もコンビニ袋削減という適当なオチを見つけた。
じゃあ、次の世代に期待するにしても、そもそもごみの後始末に興味持つ人ってそんなにいないから今があるんだよね。私も興味なかった。

仕方ない。

この話は人類皆で仲良く黙って飲み込むしかないよねえ。
黙って飲み込んで、まずは今日だけ生き延びようってことだよねえ。

ババが手元にころがってきたら、それは運が悪かったってことでえ。

この話ばっかりは、個人も企業も国もどうにもならん。お手上げ。
わが国では、企業トップや上司と意見が食い違おうが、企業にいる限り、廃棄物を排出者の責任でもって処理するという原則を、実務担当者として甘んじて受け入れるほかない。
世界中の人ができる限りお金をかけようとしないのは、世界中の誰にも経済合理性がないからですね。
仕方ない。
だからこの話はここで行き止まりなんですね。

 

じゃあこの話は何って、工場の廃棄物処理のルールを調べて、決めていくのは、できるだけ企業トップに近い人、老い先短い人が良いよねって愚痴。金を出す権限がないと、いつまでも調べ物すら終わんない。

この話を、ひょんなきっかけで近くの個人経営店のご主人についつい涙を垂れ流しながら話したら、あんまり抱え込まないで、とか、企業にいるだけいいのよ、とか、やさしく諭してくださった。

どうしようもないものはどうしようもない。飲み込むだけ。

ま、簡単に飲み込めたら困んない。

晩年は、廃棄物処理施設や、工場の廃棄物処理担当者を引き受けることにやぶさかでない。
農業に欠かせない農薬を扱えたりもするらしい。
そういう点では、この資格を取ってよかった。