ふらふら生きつつふらふら書く

情報処理技術、演劇、仕事、生活、他諸々、頭の中を整理するために書き出します。

スケッチ

もう少しで5月になりそうな春。穏やかな田舎。大きい市民公園に隣接する中学校。昼食を準備する生徒たち。
当番の生徒は、膝まで届く長さの、外科手術をする医者が着るようなくすんだ肌色の給食白衣を身に着けて、毛量が多くともすっぽり髪が収まるように作られたとおぼしき同じ風合いの給食用帽子をかぶっている。当番でない生徒は、各々教室から出るか、教室の後ろのロッカーの上に腰かけて談笑している。6年間を一緒に過ごした面々もいれば、この4月で初めて顔を合わせたクライメイトがないまぜになって、まだ少しぎこちない雰囲気が漂っている。教室の前方には配膳用の伸縮台が引き延ばされ、銀色の蓋つきバケツや大きなボールが乗せられている。配膳台からあぶれた食器かごが教卓の上に置かれている。食事を皿へよそう生徒と配り歩く生徒に分かれて、教室中の机の上に、食事が次々と置かれていく。
おおよその配膳が終わり、最後の一枚らしき銀色の掌大の平皿に乗せられた野菜のごま和えを、伸縮台の上から男子生徒が取り上げた。
「最後かな。」
綿のマスクの中で呟いて、4席ずつ向い合せにまとめられた机の島々をきょろきょろ見回しながら、教室の前から後ろへ向かって歩いていている。どの机にも、すでに銀の平皿は置かれていて、最後の一皿が余分だと分かった。男子生徒は銀の皿を配膳台に戻そうと、振り向いた。矢先、女子生徒が視界に入った。男子生徒はとたんに顔を火照らせ、進行方向にいる女子生徒へ、
「これもう置くとこないみたいだから」
と一息に言って、動きを止めた。
女子生徒もぴたりと動きを止め、ぼんやり銀色の皿を眺めている。
男子生徒は我に返ったようすで、女子生徒の横を通り抜け、おかわりするであろう生徒のため、銀色の皿をそのまま配膳台に乗せた。